医療コラム

2025年08月26日

皆さんが生活習慣病になった理由

皆さんの周りにも生活習慣病の多くの患者さんがいるでしょう。日本における生活習慣病の患者数は、がん、心疾患、脳血管疾患、高血圧性疾患、糖尿病、腎疾患、肝疾患などを含めると約1,850万人と推計されている。これは、日本人の約15%に相当する割合である。

これほどまでに生活習慣病患者さんが多いのは食べ過ぎ・運動不足だから?
食べ過ぎは間違い、運動不足は正解。

日本人はスリムである。スリムなのに食べ過ぎなのか?
国民全体、日本人の総論では食べ過ぎではない。

運動不足か?
これは正解。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日の平均歩数は、成人男性で約6,793歩、成人女性で約5,832歩。65歳以上の高齢者では、男性で約5,396歩、女性で約4,656歩である。一部運動を頑張っている方も一部にはいるが、総論では運動不足。

今回は日本人に生活習慣病が多い理由を記載する。

●歩数と死亡リスクの関係●

歩数と死亡リスクの関係については2022年3月2日「The Lancet Public Health」に掲載された米国マサチューセッツ大学アマースト校 Amanda E Paluch 氏らの報告を紹介する。

15件の研究のメタアナリシスの結果をまとめたものである。調査開始日は1999年から2018年。サンプル全体の対象者は成人47,471人。平均年齢65.0歳。そのうち3,013人が死亡。追跡期間中央値7.1年。

歩数を4つのグループに分け、まず全体では、多いほど死亡リスクは低い。一番少ない中央値歩数が3,553歩のグループに対して一番多い中央値歩数が10,901のグループは死亡のハザードリスクは0.47と半分以下である。これはかなり大きな差である。

次に60歳未満と60歳以上の年齢別に2つのグループに分けた解析の結果が次の図。

60歳未満の人は9000歩あたりが死亡リスクは最も低く、60歳以上の人は多いほど死亡リスクが低い。
翻って日本人の平均歩数はできうる限り死亡リスクを下げるという点では足りていない、特に高齢者では全然足りていないのである。
総論として日本人は運動不足と言っていい。

日本人は食べ過ぎか?

結論から言うと、総論として日本人は食べ過ぎではなく、むしろ食べ足りていないくらいである。

糖尿病患者さんがいつもよりたくさん食べるといつもより血糖値は上がる。これは正しい。
たくさん食べたら血糖値が上がったから、自分は食べ過ぎて血糖値が高いと考えている糖尿病患者さんは多い。しかしこれは必ずしも正しくない。

食べ過ぎかどうかは血糖値とか中性脂肪の値とかで判断するのではなく、体型で判断するものである。
体型からの判断では日本人は痩せている。

図は世界各国の体格指数BMIの比較。日本は左下の方にある。日本人はOECD加盟国の中ではとびぬけて痩せている。
世界各国の比較では男性はそれほどでもないが、女性は北朝鮮とほぼ同じBMIである。

★日本人は食べ足りていなくて寿命を損している★

BMIと死亡リスクの関係のグラフを示す。

上のグラフは玉腰暁子先生のJACC研究という研究。65歳~79歳の男女を11年間、経過観察してBMIと死亡リスクの関係を調べたもの。
男女とも高齢者は痩せに弱く、肥満には強い。男女とも高齢期にはBMIが20を切ると死亡リスクが上がっている。
日本人は65歳まで生きる確率は、男性で約89.8%、女性で約94.6%である。
ほとんどの方が65歳を超えて生きるので、高齢期に向けて太っていきたいところである。

70歳以上の日本人でBMIが20未満の人の割合は、男性では2割、女性では4割近くという調査結果(平成29年(2017)「国民健康・栄養調査」の結果)がある。JACC研究の結果よりBMI20を切ると死亡リスクが上がるとしたら女性の4割、男性の2割が痩せで寿命を損してるわけでである。

一方、上のグラフによると高齢期に肥満で死亡リスクを上げているのは男性の一部である。日本人を全員太らせたら寿命は延び、痩せさせると寿命は縮むのである。でも日本人を太らせたら生活習慣病の人は増える。
ここでポイントだが、マラソンの強い体型と相撲の強い体型が違うように医療費がかかりにくい体型と長寿な体型は違うのである。

生活習慣病のデータが悪くならないように食事量を減らすのは長寿のためには必ずしも正解ではない場合が多い。
「老化が諸悪の根源」の話の中で、40歳以降の人の余命と生涯医療費と体型の関係の話をしたのでご参照下さい。

日本人になぜ生活習慣病患者さんが多いのか

さて今回の話の結論だが、日本人に生活習慣病が多いのは、妊娠中に母体があまり食べていないからである。
妊娠中に母体があまり食べないと、児のエピゲノムに変化が起こり、将来、糖尿病や高血圧になりやすいのである。

★エピゲノムとは★

エピゲノムとは、遺伝子の塩基配列を変化させることなく、遺伝子の働きを調節する仕組みのこと。DNAやヒストンというタンパク質に化学修飾が施されることで、遺伝子のオン・オフを切り替えるスイッチのような役割を果たす。エピゲノムで重要なことは細胞の種類や状態によって、どの遺伝子を働かせるかを決める役割があること、環境要因(食事、ストレスなど)の影響を受けやすく、変化することがあること。

妊娠中に母体があまり栄養を摂らないと、胎児はエピゲノムを変化させ、「これからあなたが生まれ育つ環境はあまりカロリーを摂取できないから、膵臓はさほどインスリンを出す能力はいらないよ!」となるのである。生まれつきインスリン分泌能が弱くプログラムされるのである。

上のグラフは、ブドウ糖を口から摂取した時のインスリン分泌量を、日本人とアメリカ人とで比較したもの。同量のブドウ糖に対し、日本人のインスリン分泌量がかなり少ないことがわかる。
日本人のインスリン分泌能は生まれつき低くプログラムされているのである。

★胎児期の低栄養と糖尿病★

胎児期の低栄養は低出生体重と関連し、低出生体重児は将来の糖尿病リスク上昇と関係している。
低出生体重は糖尿病に関して膵臓のβ細胞数と体積の減少をもたらす。β細胞数の減少はインスリン分泌能低下に直結する。

さらに低出生体重児は脂肪細胞の数が相対的に少なく、脂肪細胞の数が少ないと、脂肪組織全体としてエネルギー貯蔵庫としての能力が低下する。そのため、脂肪細胞が少ない個体では、早期に脂肪細胞が肥大し、内臓脂肪蓄積も生じやすいのである。
こうして胎児期の低栄養は児の将来の2型糖尿病リスクを高めるのである。

★胎児期の低栄養と高血圧★

胎児期の低栄養は低出生体重と関連し、高血圧においては腎臓の糸球体数の減少と関係している。

グラフのごとく、出生体重が腎臓の糸球体数を規定しており、出生体重2600gと3200gでは体重は20%の違いだが、糸球体数は30%の差がある。出生体重と血圧の関連を見た報告では30歳代では大きな差はみられず、せいぜい4~8mmHgである。しかしその年代以降に大きな差が生じてくる。

小児の本態性高血圧の頻度の報告があり、わが国では11.3%でこの頻度は英国の3倍である。
これは日本での低出生体重児の多さに起因すると考えられている。
低出生体重児に糖尿病や高血圧が多いのはともに胎児期の低栄養に起因して胎児のエピゲノムに変化が生じたからと考えられている。

★平均出生体重の推移★

1970年台には出生体重は3200gまで増えたが、以降減少傾向で、最近では終戦直後の1950年より少ない。
貧しかった終戦後より胎内は低栄養なのである。

●子供や人の世話にならずに長生きするには●

皆さんの希望は「子供に老後の介護をさせたくない、ヒトの世話になりたくない!」だと思う。外来で「いつ死んでもいいねん! ころっと逝きたいわ!」と言われる方が多い。これは長生きして寝たきり期間が長い人を見聞してきたからであろう。でも皆さんの本心は「長生きしてころっと逝きたい」ですよね!

そんな希望にこたえるにはどうしたらいいか早稲田大学の論文がそのヒントになる。

「老化が諸悪の根源」のところで早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝助教らの高齢者の死亡リスクをフレイル・非フレイルに分けて検討した論文をご紹介したが、その続編として、障害生存期間を追加検討した論文(Watanabe, D. et al; Is a higher body mass index associated with longer duration of survival with disability in frail than in non-frail older adults?: Int J Obes (Lond). 2025 Feb;49(2):348-356. doi: 10.1038/s41366-024-01681-6. Epub 2024 Nov 15)を紹介する。

BMIと生存期間の関係においては、全体で見るとBMIが大きい方が生存期間が長い。フレイル(要介護の予備群)ではBMIが大きい方が生存期間が長い。非フレイルではBMI21.5-24.9が生存期間が長く、それはフレイルで生存期間が最も長いBMIである≧27.5より長いので、生存期間を長くするには非フレイルのBMI21.5-24.9がベストである。

次にこの研究では、障害生存期間も評価している。
まずフレイル群であるが、BMIが大きいほど生存期間は長いが、生存期間延長に応じて障害生存期間も長くなっている。
非フレイル群では全体的に障害生存期間が短い。非フレイルは人の世話になりにくいのである。

さて、皆さんの希望が長生きしてしかも人の世話になりたくないなら、非フレイルでBMI21.5-24.9がその可能性が高いのである。長生きできて障害生存期間も短いのである。フレイルと非フレイルを分けるものは基本的に体力であり、体力の差を生むのは運動であろう。

運動しなくても太れば長生きできるが、その場合は障害生存期間が長い。運動すれば非フレイルで居続けられ、障害生存期間は短い。
最悪はフレイルの痩せている人である。とびぬけて短命である。自分は食べすぎだと考え、食事を減らすと運動量も減り、痩せたフレイルになるのであろう。これだけは避けたいところである。

ベストの非フレイルでBMI21.5-24.9のグループは、非フレイルであるから運動をしているのでそれなりに食べていることに留意して欲しい。皆さんの希望である「人の世話にならずに長生きする」を実現するような食事量と運動量は皆さんが思っているより一般には共に多いことをお知らせして終わります。

執筆情報

執筆者
医療法人 亀寿会 亀岡内科
亀岡内科院長 医学博士 亀岡 慶一